打ちひしがれた「坊や」

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打ちひしがれた「坊や」

ゆずっておきながら一瞬彼の顔にくやしそうな表情が浮かぶ。肌のむっちりとした、遊びの玄人から見てもうまそうな女だったからだろう。童貞亜種の俺であるならなおさらだった。しかしだからと云って冒頭にしるしたようにいきなり女のドレスをまくし上げるような蛮行におよんだのではない。すぐにそれと知れる俺の初さ加減をからかって、マレー系の女が指先で俺の額を突っついたのだ。すると俺は思わず逆上してしまい、しめるでもなく女の首に手をあてて身をのけぞらせてしまった。女にしてみればただのふざけで、俺はたとえば大仰に両腕をひろげてひっくりかえるふりでもすればよかったのだが、現実は違っていた。かくも野暮な俺を制すべく中国系の女が割って入り、身をぴったり寄せて俺を制したのだった。自分のしたことをすぐに後悔したがしかしなんでもない風をよそおって、さらにやらずもがなの愚行を重ねてしまったわけである。つまり平静と余裕をよそおったのだが、しかしそれでいていざ手を触れるとたちまち情欲のとりこともなってしまった。なんともなさけなくてダサい、童貞亜種の顛末。佐々木と売春宿のこわい兄貴の目が一瞬ギラリと光ったのを今でも覚えている。 「ナンバー10!」チャイナ服を肩にひっかけてショーツ一枚で部屋から出て行く女が、戸口で「こいつどうだった?」と目で訊く宿のこわい兄貴に、大声で俺のナニへの評価をのたまわった。プレイ後はほとんど秒殺された俺はぐーの音も出ない。すっかりぞんざいな風で出て行ったその女にも、嘲笑する女衒屋の兄貴にももはや何をどう思うというのでもなかった。しばらく待たされたあとで出て来た佐々木の言動にも力なく応ずるばかりである。「早かったね。(女)どうだった?」俺のしょぼくれた様子にすべてを悟っていながら訊いてくる。女郎買いに初な男のプレイ後の心境まで判っている顔をしていた。すなわち当惑と罪悪感に充たされた「坊や」の今のそれを。生真面目にエスコートへの礼を述べる俺に「いやいや、童貞喪失のお手伝いができちゃって」と臆面もなく云い、のみならずこれ以後の俺の行く末までからかったのは(似非)沙門としての「ことならず」への宣言でもあったろうか。
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