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何度でも!…六道輪廻男
皮肉たっぷりに「そんなタマかよ」なる意を込めてこう出家の門出を祝ってくれた。「しかしおたくもよくやるね。本当に坊さんになるの?ははは。これでいい垢落としになったわけだ、精進前の。それじゃあ、せいぜい頑張って」たくましい歯をむき出しにして、哄笑しながら彼はバンコックのネオン街へと消えて行った。実際このあと俺はここバンコクで得度、坊主になろうとしていたのだが、どんな坊主だか、得度前の女買いに走るようでは始めっからお里が知れていた。
仏教用語で六道輪廻というものがある。何度も何度も同じあやまちをくり返すことを云うのだが、実際この夜の顛末はそれをよく物語っていた。「これから俺は生き直す、精進するんだ。だったらその前に…を」が実に多い俺だった。しかし現実には…が永遠に続くのであって、精進と称す最中にでも中休みとかなんとか自分を偽って、それをひんぱんに生起させてしまう。畢竟我人生にまぼろしの精舎を何度造ろうとも、まぼろしはまぼろしでしかなかった。そしてついには還俗し果て、佐々木の哄笑が響きわたるばかりである…。
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