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「カオルコのカメラ、喋るよな?」
ナオキはいつも唐突だ。あたしはちょっと驚いて彼を見る。
「こないだそのカメラに叱られたんだよ、俺」
「ジェームスに?」
「え、ジェームスっていうの?」
あっ、と思ったけど遅かった。まいっか。どうせバレてるみたいだし。
「さわるな小僧! って叱られた。部室にカメラ置いてヒロノとラーメン食いに行っただろ? あん時ちょっと……」
「触ったの?」
「いや、誰も触ってないのに勝手にパシャッ、て」
「ああ、それを見ちゃったんだ」
「平然と言うなよ。このカメラどうなってんだ、とか思うだろ、ふつう」
あたしはつい笑ってしまったが。
「笑うことか?」
「うん」
ジェームスはおしゃべりだ。
19世紀イギリスの写真家だったと本人が言うけれど、いや、カメラ本人という呼称も変だが、イギリス人にしては日本語が流暢だ。
「バカモン、カメラだの携帯電話だのが言葉を話す訳があるまい!」「話すわよ」「わたしは日本語など知らん。だが恣意的に物事を伝える術は心得ておる! そういうことじゃ」
得意げに言われても意味が分からなかった。
要するにその、カメラというツールに宿った、魂だけの存在がジェームスだから、その魂の存在を認めることができる人間であるからこそ、ジェームスの思いを言葉として受け止めることができる。また受け止める側のあたしが日本語しか分からないから、ジェームスが日本語を話しているように感じるだけだ、ということらしい。
「で、奥さんに殺されたんでしょ?」
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