地上より

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「お世話になりました!」 皮肉に呆れ、苛立ちや怒り、何でもよかったが兎に角その一言に全部乗せて上司にぶつけ、辞表を机に叩きつけて今に至る。 ジャケットはオフィスに置き去りにしてもう取りに行くことはない。ネクタイは鬱陶しかったので、無理やり外してコンビニエンスストアのゴミ箱に迷惑承知で突っ込んだ。 そう、俺は仕事を辞めたのだ。 「君は一般企業って感じじゃないな。」 大学の恩師にそう言わしめた私は、当時は全くその言葉を気にせず、自分も諸先輩方のように一般企業に立派に勤め、どこにでもいるような大人にしっかりと成るのだろう、そう思っていた。そのうち役職に就き、生活が安定した頃に結婚をし、最終的には未だ見ぬ子供や妻の為に働くのだ、そう考えていた。 だが、今になって、恩師の先見の明は確かなものだったと思い知らされた。悉く俗に言う一般企業は私の肌に合わなかった。皆に真面目だねと学生時代によく言われた。自分なりに真剣に課題や講義に臨んでいた結果だと思う。何時からか、周りから言われるそれが自分の本質なのだと思い込み、私は自分でも気づかぬ間に皮を被っていた。 真面目なのではなかった。周りの目が怖くて、誰しもに良い奴だと思われるようなニンゲンを演じていたのだ。そのくせ自己主張は激しく、他人に合わせ合わされることを何よりも嫌い、愛想笑いを浮かべる面の裏で誰に対してであろうと舌打ちをしていた。他と共生し、他を慮り、お偉いさんが掲げた旗に群がり、敷かれたレールを何の疑いも無く走る。そんな生き方は俺には到底出来そうになかった。気づいた時には辞表を書き殴っていた。
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