第7話 恋の悩みもラジオにのせて

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話は遡ること数日前。 ラジオの仕事が決まったと発表があった時、勝行は柄にもなく立ち上がって喜んだ。熱望していた仕事のひとつだったから、興奮してしまうのも無理はない。 「ほんとですか!」 「ほんとほんと。タイトルにWINGSって名前も入る」 「すごい……! ありがとうございます」 世間的には、WINGSは夏の活動休止宣言からまだ完全復活を遂げていない。ライブハウスで活動することだけは練習を兼ねて許可してもらっているが、受験も終わらぬうちに休止解除後の仕事が決まったことにまずは感謝しなければ。 勝行は得意げに企画書を渡してくれるマネージャーの高倉に深々と頭を下げた。彼ら事務所のメンバーが水面下で働きかけてくれたからこそ、つかみ取れた仕事だ。その隣で不思議そうな顔をしながら、光も企画書を覗き込んだ。どうやらラジオのことはよくわからないらしい。 「お勧めの音楽をかけたり、作曲の裏話や持論を語ったり。リスナーさんと交流したり……そういうの、憧れてたんですよね。子どもの頃から、つい夜更かししてしまうほど色々聴いてました」 「そうかあ、勝行くんのその豊富な音楽知識はラジオで積み重ねたものなのかな」 「そうですね。実家で聴かされるのはクラシックばかりでしたので」 「そうそう。クラシック界期待の星だった御曹司がロック好きっていうギャップに、放送局の人もちょっと食いついてくれたよ。まあ実際はちょっと……企画的にはその……」 急に口ごもりながら、高倉はとりあえず企画書を見てねと告げ、席を立った。 コピー製本された企画台本には、「らじこむういんぐす」と仮タイトルが掲げられていた。 「俺たちの初・冠番組ってことだよな……」 感慨深くて表紙を開くまでに深呼吸してしまう。そんな余裕のない勝行を見て、光は「そんなにすげえ仕事なん?」と首を傾げる。 「もちろん。メジャーで音楽やってるって認めれらたようなもんだし。ここから認知度を上げて、今度こそもっとでかいステージで……」 興奮のあまりまくし立ててから、あっと気づいて思わず光を振り返る。この夏、光が自分の体調のせいでオファーのあったライブに出られなかったことを落ち込んでいたのに、無神経に蒸し返すようなことを言ってしまった。 だが光は嬉しそうに微笑んでいた。まるで飼い主の喜びを分かち合ってくれている犬のような、優し気な笑みだった。 「よかったな。勝行、いっぱいがんばったから」 「光……」 そんなことないよ、とはにかみながら、勝行は無意識にその柔らかい髪と頬を撫でた。くすぐったそうに肩をすくめながらも、光はその手を受け入れてくれる。本当に懐ききった犬みたいなそれは、いつ見ても可愛い。 「中身、みてみようぜ」 「うん」 どんな内容なのかな。何が起きるかわからない玉手箱を開けるような気持ちでそのページをゆっくりめくった勝行だったが、三分後には頭を抱えて泣いていた。 「なんで……なんで、こんな内容!」 「これはどう考えてもタモツの好きそうなやつだな」 「うああああ!」
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