第7話 恋の悩みもラジオにのせて

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** 届いたリクエストやメッセージは、番組開始やラジオスタートを純粋に祝ってくれるものが殆どで、勝行は少し安堵した。 そう言われてみれば、ライブに来てくれる子以外のファンは殆ど知らない。夏にアルバムを発売して以来、表舞台では何もしていなかったというのに、全国から応援の手紙が届くということは本当にありがたい事だと思う。 ステージとは違い、マイクの先には客は見えない。それでもスピーカーを通した先にいる客が、自分たちのコンテンツを楽しみにしてくれている。緊張はすれど、視線を感じない分まだ大丈夫そうだ。光に淹れてもらった食後のコーヒーを堪能しつつ、勝行はひとつひとつのメッセージを読み込み、明日のトークのシナリオを懸命に組み立てる。 時折「ラジオで二人、濃厚なキスして」といった無茶ぶりも混じっていたが、いくらなんでもそんなものは採用できないので見なかったことにした。 リスナーはみんなWINGSとの交流を望むファンばかり。小さな規模のライブで握手したり、歌を聞かせたりするだけではまだ求心力が弱すぎるのだと痛感した。事あるごとにアイドル色を出そうとする事務所やプロデューサーの意向は理解できる。ただ、仕事として割り切るにはもう少し時間がかかりそうだ。 (言葉で交流なんてしなくても、音楽だけで共感してもらえる曲が作れるようになりたいな……) 顔出しを未だ嫌がる光も、似たようなことは感じているに違いない。 「おなやみ相談」コーナーなるものもあるらしく、真剣な恋煩いをつらつらと連ねた手紙まで見つけて頭を抱えた。こんなふうに、他人の人生を左右するような模範解答を出せるパーソナリティになれるのだろうか。まだ自分の恋すら片づけられないし、恋愛を題材にした歌も作れない、青二才の自分が。 「なあ光……俺さ」 隣で一緒にメールを見ていた光を振り返ると、夜も更けすぎた所為かこくりこくりと舟を漕いでいた。あーあ、と鼻で笑い、身体を引き寄せ倒れないようにしてやる。 恋愛と友情と家族愛の境目は、いつしか混ざり合って溶けていく。 冬が近づくにつれ、光を暖房代わりに抱きしめる回数が増えた。光も人肌を求めては擦り寄ってくるし、わざとセーターに手を突っ込んできて暖を取ったりする。どちらからともなくキスをすれば幸せな気持ちに満たされ、何度も何度も身を重ねあう。 こんな距離感を持つ同居人のことを、一体なんと呼ぶのだろう。 互いを支えあう背中が、重いけれど暖かい。 「んー……かつゆきぃ……、まだ……?」 「どうした。もう寝ていいよ、明日はラジオ本番だし」 「さむい……一緒にねよ……」 風邪をひかれては困るので、大抵寝落ちそうになったら本人の個室まで連れていくのが通常ルートなのだが――。最近の光は、ダイレクトに「添い寝」を希望してくる。きっと人肌が恋しいのだろう。 確かに、そろそろ毛布なしにうたた寝するには冷えすぎる季節になった。 「まだ全部チェックできてないよ」 「んん……もういいだろ。いっぱい読んだし……疲れた」 ――お前、働きすぎ。 寝ぼけながらそう言うと、珍しく光がパソコンのマウスを強引に取り上げた。 「何するん……」 「クソ真面目なのはわかるけど。体調管理も大事だろ」 言うや否や光に首根っこを掴まれ、強引に勝行の寝室まで拉致された。 部屋に入った途端、光はダブルベッドの上に無理やり押し倒し、そのまま覆いかぶさるように唇を奪ってくる。薄桃色の花弁を何度も何度も重ね、粘膜をまさぐる様に絡みつく。その身体も、舌も、まるで小さな子どものように酷く熱い。きっと貪るだけ貪って、満足したらあっさり寝落ちるだろう。 「んっ……ん、ぁ……」 「……っ」 毎晩のようにこんなことする兄弟、一体どこにいるんだか。 (ああ……ここにいたっけ……) 光の成すがまま、顔に手を添え濃厚なキスに付きあっていると、光の手がするり、勝行の鼠径部をひと撫でした。思わぬ刺激に感化され、中心がさらにドクンと跳ね上がる。 「ん、んんっ……」 「……っ……はぁ……すげ……ガチガチ」 「うっ……さわる……な……っ」 「なんで……?」 口元から透明な糸を垂らしながら、光は名残惜しそうにキスをやめ、代わりに勝行の股間を何度も布越しに擦った。やめろという言葉が出るより先に、耐えがたい喘ぎ声が零れてしまう。 「俺、タモツに聞いたんだ」 「……なにを……?」 「マジで疲れたらここ勃つって。ライブのあととか……俺すぐこうなるから、なんでか聞いたら教えてくれた。別におかしいことじゃないって。……勝行、絶対それだろ……だから俺が、抜いてやるよ。そしたら明日のラジオもきっとうまくいく」 「そ、そんなの……」 関係ないよと言いたかったが、あまりに色っぽいそのしぐさに何一つ逆らえなかった。馬乗りになったままの光の一挙一動から目が離せない。 (俺のソコがでかくなる理由は、ラジオじゃなくてお前のせいだって――!) そんな恥ずかしいセリフ、言えるはずがない。 光は至って真面目に何度も勝行のカタチを布越しに確認しながら、やわやわと撫で、ファスナーを下ろす。スラックスの下から出てきた下着もあっさり外され、ついに勝行の隠し続けたそれは開帳され勢いよく飛び出した。 「マジ、何べん見てもでっか……」 (ダメだ、視るな、触りたい、さわりたい、出したい……っ) さっきまであれほど真剣に考えていたのに、ラジオのことなどもう何一つ脳裏に残っていなかった。ただひたすら、下半身を見られたことの羞恥と、男の欲望に掻き立てられて勝行の心は激しく葛藤する。 顔を隠して下半身丸出しの勝行を見下ろしたまま、光はにんまり笑った。――ように思えた。 次の瞬間、もうその顔は見えなくて、代わりに股間へと全神経が集中した。
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