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青と白のイルミネーションが二人を出迎えてくれる。
週末になるたびライブか仕事に出かけてばかりだった二学期も終わりを迎え、世界は色とりどりの鮮やかな光に包まれていた。
終業式の直後に一日二回公演の箱ライブを敢行し、正直くたくただった今西光は、蒼白いライトの中でぼんやりと立ち止まった。
だがそこは自宅マンション自動ドアのど真ん中。
その存在を攻撃するかの如く、透明なガラス扉が真横からスライディングする。
「光、あぶない」
先に中へ進み、集合ポストの中身を確認していた相羽勝行が、今にも挟まれそうな光を見つけ慌てて腕を引いた。
「どうしたんだよ、ぼうっとして。もしかしてもう眠いのか?」
「……ん」
「がんばって十階の部屋に辿り着くまでは起きててくれよ」
苦笑しながら勝行は口元を覆っていたマフラーを少し広げた。かっちりと絞めたエンジ色の制服ネクタイが首元から見える。
眠たそうな顔をしたまま、光は向こう側にある何かを見ているようだった。
その半分閉じかけた瞳に映るのは、白と青の発光LED。キラキラと反射しながら中庭の植木を純白に彩るそれは、クリスマスのために飾り付けられたものだった。
あんな飾り、前からあるのに。今更どうしたのだろう。
勝行はぼんやりそれを見つめる光の頭を自分に引き寄せ、ぐりぐりと撫でた。出会った頃は高くて届かなかったが、今はもう殆ど変わらない距離で掴める。そのキャラメル色の髪が、冬の冷たい風に吹かれてさらりと揺れ動く。
「この週末はいっぱい仕事して疲れた?」
「……頑張ったからなんかくれ」
「お前最近そうやってすぐご褒美欲しがるんだな」
「だめかよ」
「別にいいけどさ」
昔は欲しいものなんて何もない、と言って残り人生を投げ捨てるように生きていた。ただの貧乏性かと思っていたが、彼はどうやら未来を想像したり、考えることが難しいらしい。重い病気を抱えて生きてきた人間にはよくある心の障害だと、主治医に教えてもらった。
そんな光が、ここ東京で楽しいことを沢山覚えて、だんだん強欲になっていく。明日はこんなことがしたい。来週はアレが食べたい。――そんなふうに、普通の子どもみたいな我儘を時折零す光が可愛いくて、つい甘やかしてしまう自分が悪いのだ。……と気づいてはいるものの、勝行にそれを自重する気など全くもってない。『明日』の楽しみを作って、光の未来を自分との予定だけで埋め尽くすことが幸せだから。
「何が欲しいの? 明日はイブだからなあ。プレゼントを買うには最適な日取りだよ」
「いぶ……? それ、なに」
「クリスマスの前夜ってこと。家でパーティーしたり、プレゼントを交換したりするのが鉄板だね。そういえばお前はこの時期よく肺炎になって入院してたんだっけ。去年も、その前も……」
「ああ……クリスマスか……それならわかる」
明日のクリスマスイブは、ライブをやると決めている。いつものライブハウス・インフィニティでのクリスマス企画。裏方仕事に従事しつつメインステージにもあがる予定だ。
買い物に行く時間はあまりないだろうが、ライブハウスは午後から出勤だし、午前中なら空いている。ランチを兼ねて出かけるのもいいかもしれない。
スケジュールを脳内で瞬時に読み込んだ勝行は明日のショッピングを提案した。
「欲しい物があったら、何でも買ってあげるよ」
「あれがいい」
「……あれ?」
目の前で煌めくイルミネーションから目を離さない光が、数歩進んで中庭に入り込んだ。きょとんとしたままそれを見守っていると、「こっち」と呼ばれ、手招きされる。
「何? そのイルミネーションは買い取っても持ち帰れないけど」
呼ばれて怪訝な顔をしながら光の向かいに立つと、いきなりその唇に暖かいものが重ねられた。目の前の白い煌めきが、自分たちのその姿を艶やかに包み込んでいく。
刹那、祝福された恋人のような。
「んっ……ちょ」
慌てて光を引き離し、怒ろうとした途端、その表情が見えなくなった。
ぬくもりと重みが同時にずしっとのしかかる。
「ひか、」
キスしながら立ち姿で寝落ちる光を慌てて支えながら、勝行は思わず叫んだ。
「こんなところで寝るな、ばか!」
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