第8話 黄金色のクリスマスキャロル

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** 翌朝。 あれから勝行の専属SP・片岡に抱きかかえられて帰ってきた光は、着の身着のまま朝まで寝落ちていたせいで、制服もぐしゃぐしゃだ。寝ぼけ眼に舌打ちしながら洗面所にやってきた。勝行は先に朝シャワーを浴び終え、脱衣所で着替えている真っ最中だったのだが、いきなりの訪問者に驚き慌てて下着を引き上げた。 「機嫌悪いな。抱っこされて帰ってきたのがそんなに嫌だったの?」 「いやだ」 「わがままだな……玄関に放置しとけばよかった?」 「うっせえ! お前だって姫抱っこされたら恥ずかしいだろっ」 「片岡さんは別にお前を女の子扱いしたわけでは……」 光は「うるせえほっとけ!」と声を荒げて反発する。どうやら男のプライド的な問題らしい。 ノックも断りもなく入ってきた光は、その場で服をポイポイ脱ぎ捨てていく。 露になった素肌から、自分が夜中に付けたと思われるキスマークや桃色の乳首が見えて、勝行は思わず視線を泳がせ洗面台側に向きを変えた。 「お前さ。俺の目の前で服脱ぐことは恥ずかしくないの」 「は? なんで」 「いや、普通はさあ……」 別の誰かが部屋にいる時、人目も憚らずすっ裸になるなんて、と言いかけたのだが、光は全く聞きもせずに浴室へと直行していった。スライド式の扉がガシャン、と小気味よく説教をシャットダウンする。 間を置かずにシャワーの流水音が響き始め、洗面所内のBGMになっていく。 「もう……」 濡れた髪をタオルで拭きながら、勝行はため息をついて鏡に向き直した。 光に自分にとっての『普通』が通じるわけがない。 性格と育った環境が違いすぎるせいか、お互いに恥ずかしいと思う部分も、プライベートだと思う空間も全く違う。同居を始めたばかりの頃には耐え難いと思っていたあれこれも、三年目を迎えた今となっては正直どうでもよくなってきた。裸でうろうろされるのだけはやめてほしいのだが。 (未だ俺に対して危機感持ってないってことは、やっぱりあいつにとっての俺は恋愛対象じゃなくて、ただの家族なんだろう……) 未だに一度も聞けてない。キレると記憶が吹っ飛ぶ自分が、度々あの男の身体に一体何をしているのか。少なくとも、キス以上のことは絶対にしているはずだ。それに隠せないほどうっ血しているうしろ首の吸い痕。あれはどう考えても自分が独占欲に駆られて付けたマーキング――。 (でも……いきなり俺に襲われるかも……だなんて、一ミリも考えてなさそう) 逆に男として自信喪失しそうだ。 不毛な妄想ばかりしているのは自分だけか。勝行はもう一度大きなため息をついた。とりあえず下着だけでも履いていてよかったと思いながら、立派なテントを立てている自分の股間を洗面台の下からそっと取り出す。 彼の裸を見るたび、ノコノコ起き上がるのはいい加減やめていただきたい。もはや同居生活に支障をきたすレベルだ。 (まあどうせあいつのことだから、俺のことなんか見てないよな) 機嫌が直ってきたのか、浴室からは鼻歌のような音楽が微かに聴こえてくる。 自分たちの楽曲だとすぐにわかるリズミカルなメロディを聴きながら、勝行は迷わずトイレへ直行した。 (逆に俺はここ毎日、勃たなかった日なんてないんですけど……ある意味皆勤賞というか、無駄に健康というか……俺もしかして変態なのかな) かわいい義弟の悩ましい姿を妄想して抜く。――という、脳内で申し訳ないと平謝りしていたシチュエーションも、今ではすっかりヤり慣れてしまった。 とりあえず、光が風呂からあがるまでに処理しておかなければ。今日はこれから一緒に出掛ける予定だし、うっかり外で興奮するわけにはいかない。 トイレに籠った勝行は遠慮なく分身を掴むと、壁一枚向こう側にいる裸の光を脳裏に描きながら擦り出した。 (はあ……はあ……光……ひかる……っ) いつの日か、黒の気配に支配されることなく、光のつむじから足のつま先まで、甘々に愛して愛して――愛されたい。許されるならば、それをクリスマスの願い事にしたいぐらいには。
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