第8話 黄金色のクリスマスキャロル

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** ライブハウスは熱狂と煌めきの中、次々と奏でられる多重奏の渦に揉まれ、今にも全てをぐしゃりと唯一つに呑み込んでしまいそうだ。 全身全霊を揺さぶるようなシャウト。 裏打ちビートに合わせて高鳴る鼓動。 今西光のキーボードが流暢なメロディを流せば、相羽勝行の声で紡がれる甘ったるいミクスチャー・ロックが会場中を虜にする。カラフルなスポットライトがステージを彩るたびに、低音域のベースラインが楽し気に踊り出す。二人の背中には、いつも笑ってサポートしてくれる頼りがいあるメンバーばかり。 クリスマスカラーに演出されたスポットライトの中で、全員お揃いのイベント限定ラバーバンドを嵌めた腕を振り上げた。 「クリスマスは俺たちと一緒に歌って過ごそう!」 勝行が前奏を全部バックバンドに任せてスタンドマイクを握りしめると、あちこちから声援が一体化した掛け声に変わっていく。 鳴りやまない合いの手、手拍子、降りしきる白と青のサイリウムライト。 観客席が迫力あるボリュームで応戦すれば、会場を盛り上げる勝行の煽り手に合わせたピアノが、ギターが、ベースが、ドラムスが、それぞれの音を奏でてひとつの音楽を生み出していく。その中に包み込まれながら、ついと透き通る高音ボイスの歌が始まり、この場にいるすべての生命あるものたちを魅了していく。 (いい声。もっと……もっと歌って) 玉汗を零しながら笑顔でピアノを弾き続ける光は、勝行の歌声で目まぐるしく虹色に変わる世界を彼の背中から覗き見た。 ふわり、空を飛ぶための羽が、ひとひらひらりと光の視界を一瞬遮る。 (跳べる) (もっと、自由に) 目に視えないものを紡いで光の指が次々と新しい楽譜を生み出せば、勝行がその温度を上げていく。 お互いの温もりを確かめ合い、手を取り合いながら、どちらの身体もピアノごと宙に浮いているかのようだ。 ふわり、ふわりと。 それは歌という名の、翼。
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