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「おやっさんのライブハウスが急に女子だらけになるのは、あいつがマイク持った時だって聞いてたけど、わっかりやすい現象だな……」
後ろのバーカウンターで接客しているスタッフにそんな愚痴をこぼすのは、同じく本日のゲリラライブに出演することが決まっていた中堅ロックバンドの男性ボーカリストだ。今日のトリを任されているらしく、まだ出番までたっぷり時間があるので、彼は自分の前座バンドをのんびり鑑賞していた。
「ただのアイドルじゃねーかよ」
「まあまあ、あれは本物の王子だからしょうがない」
笑いながらこのライブハウスのオーナーがノンアルコールドリンクを差し出すと、男はこんな飲み物こそ子どものアイドルソングにぴったりだな、と皮肉な笑みを零した。
「お前、今から酒焼けした喉で歌うつもりか」
「はっ。こんなんの後とか、やる気失せるし。どうせ金持ちの優等生とか、何一つ苦労してないような奴なんざ、おままごとみたいに歌ってるだけだろ」
「ああ、お前はそういえば、WINGSの曲聴いたことなかったっけ」
「ねーよ、あいつら噂には聞いてたけど、マジあの見た目からしてチャラくていけすかねえ。何考えてんのオーナー。ここのライブハウスは、ガチで音楽やってる俺らみたいな人間しかステージに立たせないんじゃなかったのか」
「まあ、確かにうちのライブハウスでは異色だな。でもまあ、聴いてみな。その感想、一変するから」
「は?」
どういうことだ、と聞き返す前に言葉は爆音にかき消された。
「いくよ!」
「きゃああっ」
前列を百人近い女子に埋め尽くしたステージの向こうから、軽やかで楽し気なピアノのグリッサンドが飛び跳ねる。疾走感溢れる爽やかなメロディに、甘ったるいクセのある歌声。
「なんだ、やっぱお子様……」
「ただ音を叩きつけるだけの爆速ロックと違って、あいつらの曲は丁寧なんだよな、子どもとは思えん」
「……」
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