☆prologue☆

1/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ

☆prologue☆

梛音はカーテンの裏側にいた。 そしてカーテン越しに、憐と四ノ宮医師の気配を伺い、忸怩(じくじ)たる思いに(さいな)まれる。 一体自分は何をしてるんだ? 余りにも不甲斐ない自分に反吐が出そうだった。 梛音、お前は何のために、医者を目指した? そして今も、死ぬほど大っ嫌いな親父に頭を下げてまで、奴の病院で働いてるのはどうしてだ? そう、全ては憐の病気の治療の為だ。 なのに今自分が出来る事は、二人の会話をこっそり盗み聞く事だけなんて。 もどかしさで、どうにかなってしまいそうだった。 生まれながらにして、薬物依存症となった憐。でもそれは憐には何の非も無い事だ。 全ては身勝手な大人たちが招いた欲望の結果だ。そんな奴らの(ふざ)けた言い草なんて、憐の耳に本来なら、一欠片(かけら)だって入れたくは無いんだ。 しかし憐の治療には、自分を知り、理解することが何よりも重要なことなのだ。 だから、今は、今だけは、我慢してくれな憐……。 今すぐ憐のそばに行って、その胸の痛みが和らぐように、抱きしめてやりたいのに。 いっそ、自分の正体を明かしてしまった方が良いのだろうか……。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!