第二章  奇妙な終電車

2/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
ようやく改札口の前まで来た。 時計を見ると終電の発車時刻を2分ほど過ぎていた。 ここはJRとの乗り換え駅だ。接続する電車がなんらかの理由で遅れた場合、乗継客のために発車を遅らせる場合がある。 「なんとか、ちょっと遅れててくれないかな?」 アキラは祈りながら足早に自動改札を抜ける。 間に合わなければここからタクシーだ。かなり高くつくだろう。 もう決して若くない足に鞭を打って階段を駆け上がり、ようやくホームにたどり着いた。 「間もなく、2番線に電車が参ります。黄色の線の内側でお待ちください」 ホームにアナウンスが流れた。 「よかったあ!間に合った!」 運よく電車が少し遅れていたようだ。 いつもなら電車が遅れるとイラつくもんだが、こういう時の電車の遅れは大歓迎だ。 シールドビームのヘッドライトを眩しく照らしながら電車が滑り込むようにホームへ入ってくる。 「あれ?」 その時、アキラは電車の前面にある行先表示盤の文字に違和感を覚えた。 そこには『安倍神戸』と表示されている。 「安倍神戸行?・・・そんな駅あったっけ?なんか関西の駅名みたいだけど・・・」 電車はホームに停車すると同時にドアが開いた。 しかし電車から降りる人はいなかった。 ドアから車内を覗くと寝ている乗客が疎らに座っていた。 「おかしいな?終電はいつももっと混んでるんだけどな」 この行先の電車でいいのか尋ねたかったのだが、ホームに駅員はいなかった。 電車に座っている人はみんな寝ていて起こすのも悪い。 「あれ?」 この時、ホームには自分以外に誰もいないことに気付く。 「何で今日に限って誰もいないんだ?」 発車のブザーが鳴り始めた。 「まあ、いいか。同じ方向なら、行けるところまで行こう。ここからタクシーなんかで帰ったら一万以上かかっちまう」 アキラはその電車に飛び乗ると、ガラガラになっているロングシートに脚を広げドカッと座った。 「でも、安倍神戸なんて駅、いつ出来たんだろう?」 どこまで行けるか分からないが、出来るだけ家まで近づければいい。 安倍神戸駅というのが自分の駅より先の駅だったらラッキーだ。 「しっかし空いてるなあ。いつもは終電はもっと混んでるもんだが」 電車の行先表示にも違和感を感じたが、このガラガラの終電の車内はさらに違和感を強く感じさせた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!