ウソツキカメラ

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ウソツキカメラ

「寒いのによくやるねぇ」  声を掛けると、ファインダーをのぞいていた君はこちらを見て、少し顔をしかめる。 「写真部ですから。幽霊部員のあなたとは違うんです」 「へいへい」 「邪魔するなら帰ってくださいね」  君はまたファインダーをのぞいた。まるで俺なんか存在しないみたいに。 「相変わらず、可愛げのないやつ」 「余計なお世話です」  君のその視線の先にはなにがあるんだろう。共有できないのが悔しい。   「あなたが撮る写真、悪くないのに。もっと真面目にやったらいいじゃないですか」 「そうかな。自分じゃそうは思えねぇけど」  俺が写真部に入ったのは、カメラに興味があったからじゃなくて、君に興味があったから。  でも、シャッターを切るだけじゃちっとも君に近づけない。  それがもどかしくて、最近部活はサボりがちだ。   「私のカメラ、特別なんです」  ファインダーをのぞき込んだまま、不意に君が言った。 「嘘つきは写らないんですよ」 「は?」 「試してみますか?」  そう言うと、君は俺にレンズを向けた。  カメラに隠れて表情は見えない。 「嘘、ついてください」 「いや、いきなり言われても」 「じゃあ……私のこと「好き」って言ってみてください」 「はぁ!?」 「ほら早く」  突然要求された告白に、俺の心臓はバクバク音を立てた。  吐く息が小さな雲になって、呼吸をするたびにふわり、ふわりと俺と君の間を横切っていく。 「どうしました?」  ファインダー越しに向けられる視線。  今、君の視線の先にいるのは、間違いなく俺だけ。   「……好きだ」  小さな声でそう呟いた瞬間、カシャ、と音がした。 「あれ」  モニターを確認して君は、わざとらしく驚いてみせた。 「写ってますね。ということは……?」 「うるせぇよ。くだらねー嘘つきやがって」 「そうですね」  にっこり笑う君。  白い息、寒さで赤くなった鼻の先、ときどき曇るメガネ。  もし今カメラを持っていたら、壊れるくらいシャッターを切ってやるのに。 「だから、私は写ってないでしょう?」  やられた。  
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