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「ここから見える景色も随分と変わったじゃろ」
「あ……」
好々爺然とした男から声を掛けられ、少女はファインダーから目を離した。
「お久しぶりです。そうですね、統一性のなかった街並みは新築の割合が高くなって大分小奇麗になったように思います。それと、本屋とコンビニの看板随分とへりましたね」
「6年経ったからのぅ。儂のような老骨にはついこの間のことにも思えるが、やはりそういうわけにもいかんな。駆け回ることしか能のない鼻たれだったガキどもなんか、やれゲームがどうのネットがどうのと、家からほとんど出んくせにあの頃よりよっぽど忙しなくなってしもうたわい」
「世話しなくていいから良いじゃないですか」
「フン、言ってくれるわい。当然じゃが変わるのは景色だけというわけにもいかんな。おまえも随分変わったのう」
「逆に師匠は相変わらずそうで安心しましたよ」
「何を言う。日々衰えていく肉体に日々戦々恐々じゃわい」
老爺は肩をすくめながら言った。
「何を仰るのです」
「それで、悔いはもうないのか」
老爺は愛娘を労わるような眼差しを少女へ向ける。
「いいえ」
「では、またすぐに町を離れるのか」
「はい」
「そうか……。
で、どうじゃった? 一度ぐらいは会うたのじゃろ、あの阿呆と」
「ええ、あの人はあの日から少しも変わっていません――いいえ、真実あの人が何を考えているのか、何のために戦っているのかさえ私にはわかりません。ただ私から見て昔のあの人と今のあの人は、なんと言うか、こう――重ならないのです」
「それでもう一度それを確かめに行くのか」
「はい」
「だから、最後に記念撮影にしゃれ込もうとカメラ引っ提げてこんなところまで登ってきたのか」
「はい。ここの景色を、たとえあの頃とは違っていても、この場所を留めて最後の旅路に持っていきたかったのです」
「取りに来たのはそれだけではなかろう」
「え……?」
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