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「届かなかったのであろう。あやつが捨てたものがおまえにはあるからのう」
「それはそうなのですが、私は本当に……」
「言葉は不要じゃ。これだけしぶとく生きてりゃ察せることも多くなる。値下がりに値下がりを繰り返した老いぼれの命など気にせず持って行け」
右腕のない老爺は肩を使って腕の通っていない袖を揺らした。
「……」
少女は何も言えなくなった。
一瞬、少女の視界から降る雪が掻き消えた。それと同時に疾風が少女の髪を揺らす。
「ワシを殺す度胸もない奴をあんなイカれた集団の元へ見す見す行かせるわけにはいかん」
先の疾風は老爺によるもの。しかし、素人目にはそれがどのように繰り出されたのかわからない。一見全く動いてないようにさえ見える。視界が悪い吹雪の中では尚更だ。
「わかりました」
少女は、殺気が潜み破壊を目的とした老爺の回し蹴りを見て意を決した。カメラを置き、コートを脱ぎ棄てて軽装になる。
「それでこそワシの弟子じゃ」
老爺は心底嬉しそうな笑みを浮かべ、握りつぶしたアルミホイルのようにクシャクシャな顔になった。
「私も師に恥じない弟子でいたい」
「そうか。実を言うとな最期に元気なお前の姿を見たいというのが本音じゃ」
「ありがとう師匠。全力で行くよ」
「おうとも。かたわであっても、まだまだ小娘なんぞに遅れはとらん」
「うん、きっと敵わないよ」
二人を隠すように吹雪は強さを増し、雪煙が舞う。
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