1章ー忘れない香ー

1/1
前へ
/25ページ
次へ

1章ー忘れない香ー

「でさぁ、達斗のやつまたユウとのデート断ってんのありえなくない?マジアイツなんなの?てか友翔聞ぃてる?」 「はいはい聞いてますよ」 俺は母親の手作り弁当をつつきながら、マシンガンのような話を受けていた。あれから1ヶ月が過ぎ、5月半ば、桜は散り、緑が辺りを埋め尽くそうとしている。じめっとした空気が少しずつ訪れ出す中、俺のところにはもう嵐が訪れている。タクミも巻き込みたいがそうするとミユも道連れになってしまってそれはあまりよろしくない。カップルは好きなだけイチャついてください。 「あ、ほらカレンさんそろそろ時間ですよ!」 「えぇ、まだ大丈夫大丈夫」 俺が弁当の時はこうして一緒に食べながら愚痴を聞くことに何故かなってしまい、俺は友達の輪を広げられず正直困っている。友達ができてクラスに馴染めているのはとてもいいことだが、俺も友達作りたいんですよねもっと。 「あーぁ、友翔といるとほんと愚痴れて楽しぃのに」 カレンさんは立ち上がり、あの時買った香水の香りが舞い上がる。俺に会う時は必ず付けているようで、ほんとマメな人だと思う。たまには別のにしてもらわないとカレンさんの香りとなって染み付いてしまいそうだ。 「じゃ、また今度ね!ちゃんと連絡してょ?あ、お前美結ちゃん傷つけたらタダじゃおかないから」 「はいはいちゃんとしますよ」 「へーい」 カレンさんは惜しみながらも足早に去っていき、俺は嵐から無事に逃れることができた。 「はぁ、面倒な人に絡まれちゃったな」 話し方もすっかり変わり、俺に対してもラフな感じで話すようになってくれた。タクミには当たり強めみたいだけど。あの人3年なのに進路とか大丈夫なのかな、今度聞いとくか。やっといつも通りの日常に戻れる。もっと友達作って…。 「あ、そうだ!ナルくん宛にラブレター貰ってたよ!はいこれ!」 作って…。はい。これもまた日常でしたね。 「あ…ありがと」 明日の放課後、校舎裏に行くことが決まったわけで、タクミに「ひゅーモテるねー」とちゃかされるこのやり取り、あと何回すればなくなってくれるのか。これで最後であってほしい。そして、本当にこれが最後になることを今の俺は知らない。昔の自分と向き合う時がこんなにも早く来るなんて、忘れたくても忘れられない香りが俺をつつみ、日々がまた始まっていく。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加