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「イレス カムイ 、ウ パセ カムイ 、アペ フチ エカシ。アキチ イノミ、カムイ ウタリ インカラァン クニ・・・・・・」
伝統の模様が刺繍されたレタラペに身を包む男達。その中心で、白く長い髭をたくわえた祭主の翁がカムイノミを唱えると、赤々と燃える炉の炎がひと際大きく弾けて答えた。
祭壇には多くの供物が祀られている。男達がヤナギやミズキの木を削って作った木弊のイナウ、女達が仕込んだ御神酒や特別な料理が並べられていた。カムイはこれらを土産物として神の国へ持ち帰り、人間の国が豊かで楽しいことを他の神々に語り聞かせる。そうしてまた別のカムイが動物の姿となって、人々が暮らすコタンを訪れるのだ。
カムイは人の手にかかり魂を解き放たれることで、その肉や毛皮を与えてくれる。人はその魂をコタンに招き入れて丁寧にもてなし、神々の世界へと送り返す盛大な儀礼を行うのだった。
コタンを臨む雄々しい山の連なり。 その麓から切り立つ山肌、雪雲に隠された頂きに至るまで白銀に覆われたさまは、美しくも人を寄せつけぬ畏怖の念を抱かせる。
凍える冬。霊送りの中でも特別な、イオマンテ前夜の饗宴は闇が深まるまで続いた。
民がウポポやリムセに興じる間、神は山あいに浮かぶ月を黄金に輝かせ、しんしんと灰雪を降り積もらせる。そんな夜だった。
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