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きちんとベッドメイキングがされた、キングサイズのベッドの上に座るように、手で示される。ためらったが、彼は言うとおりにしてしまった。社長はクローゼットの中から何かを取り出しているようだった。彼は、ベッドの横の間接照明から身を隠すように、俯いた。
「弓削くん」
頭の上に降ってきた社長の声に顔を上げると、目の前に、カチューシャがあった。
白い、猫耳のついた、カチューシャだった。
「……つけてみてくれないか」
猫耳がふわふわと揺れている。彼は、それを手にしている社長にゆっくりと目を向けた。
「あの……社長」
「ずっと! ずっと、君にはこれが似合うだろうと思っていたんだ。いつか、いつかつけてもらおうと思っていた。別れるというなら、せめて冥土の土産にこれを身につけた君の姿を目に収めたい」
「め……冥土って……し、しかし、私などこんな可愛らしいアイテムはとても似合う男では」
彼は、ネコはネコでもこんな耳が似合う男ではないと固持しようとした。お世辞にも可愛らしい系の容貌ではなく、しかも、齢三十を越えた男が、どう考えても似合うとは思えない。
「いいやっ! 色白の君には、白が似合うと確信している!」
「い……色の問題ではありません」
「頼む! 弓削くん、この通りだ! それで諦める、諦められるから、私に君の猫耳をつけた姿を見せてくれ!」
土下座……。
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