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「フ、フンフンしてただけなんて、俺だって悩んで、からかわれてるんだって、次長の余裕っぷりにいつも悩んできたんですよ! 見合う男になるんだって、温泉だって、そうですよ。一泊十万でもいいです!」
「金額とか関係ないだろ!」
「次長は関係ないと思うかもしれませんが、俺にとってはあんたと釣り合う一つのバロメーターで! どんな遊びにだってつきあえる、そんな男になりたいんです俺は! だから出世したいんだ!」
興奮を叫び終わって、戸隠は思った。
一体何の話をしていたんだっけ?
温泉?
投入堂?
考課?
「……ええと……」
「もういいよ。仕事しよう」
二つのキーボードを叩く音が響く。
ぐるぐるぐるぐる。重ならないままに、ただ回り続けている音だけが、積まれていく。
目の前の次長の顔は、パソコンに半分隠れている。目が、パソコンの文字を軽く追っている。
残業や休日出勤のたびに、あの目を追うようになったのだ。
時々向けられる瞳に、背中が疼いた。その目は、何なんですかと訊きたくてたまらなかった。男に、意味ありげな視線を向けられていると自覚する前に、背中ではなく股間が疼いていた。そのうち……。
「何考えているのか丸わかりなんだけど」
「また表に出ていましたか!?」
「違うよ。忘れたのか。俺がお前を口説いた最初の言葉だよ」
そうだったっけ。
戸隠は、そんな細かいことなど全く忘れていた。
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