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ああ、どこまでも融通の利かない馬鹿だ。彼は、大きくため息をつきたくなった。かろうじて、口を引き結ぶことで抑える。
本当に、仕方のない奴。
「……先生」
「まだ続ける気か。いい加減に……」
「好きです。先生」
彼の声音に、男は視線を向けてきた。いつだって、どんな時だって、まっすぐに見つめてくる目に、彼は語りかけた。
「……突然、アパートまで押しかけて、何言っているんだと思うかもしれませんけど、俺は、先生がずっと好きでした」
男の目が混乱するようにさまよったのは一瞬で、すぐに、過去を懐かしく眺めるような瞳に変わった。
それで彼も、気がついた。
なんだよ。シチュエーション、同じじゃねえか。
内心苦笑しながら、彼は、あの時と同じ事をした。
「一回でいい。一回で忘れるから、抱いてください……先生」
あの時は、声を平淡にさせることしか頭になかったな、と、シャツのボタンを見つめながら彼は思った。
手ががちがちに固まって、指一本自由にならずに、ボタンを外すことに難儀して。
早く、一刻も早く脱がなければと焦って、結局は余裕のなさをさらけ出した。
「……一回?」
日に焼けた、たくましい腕が抱きしめてくる。
「……そりゃ、無理だな」
あの時この男は、そんなことを言っただろうか。
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