アイテムラブ

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アイテムラブ

 生真面目な社長の顔を、彼は見つめた。  何かしらの変化がその顔に表れるかと思ったが、何の変化も見えなかった。  しょせん、こんなものかと失望が心を覆う。  別れ話に相手の部屋を選んだのは、ほんの少しの、希望を込めてのことだった。  プライベートな空間なら、この男も、いつもの紳士然とした姿を、ほんのわずかでも崩してくれるかと思ったのだ。    そもそもこの社長が、自分の誘惑に応じて、わずかな期間でも恋人として過ごしてくれただけ、貴重なことだったのかもしれない。  それだけで、よしとしなければならなかったのかもしれない。 「いい……頃合いだと思うんですよ。再婚を、周りは勧めているでしょう」  二代目とはいえ、一応企業の社長だ。一度は失敗していても、周りは身を固めさせようとしているのを知っている。    そういえば、前の結婚のことは耳にしたことがあったが、この人の口から本来の性的嗜好の遍歴について聞いたことはなかったな、と彼は思った。  そんなことすら、話し合わない関係だった。  自分も話したことはない。興味がないのか、訊かれたこともなかった。     
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