everything's no change

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everything's no change

 電車に揺られていた。右肩にほおをもたれさせた。イヤホンの右耳の響きが強くなった。  お姉ちゃん、もう駄目かもしれない。  母が言った。昨日のことであった。肩の位置を調節する。音が遠くなる。  お姉ちゃん、もう駄目かもしれない。  姉の病気がいよいよ、姉を殺す。母は途方にくれたように、愕然と泣きながら言った。私はそれを、ぼんやりと聞いていた。  とうとう、または今さら来たか、そんな風に思いながら。  私にとって姉は、遠く無関係であり、同時に厄介なしがらみであった。  人というものは、何かしら交流を持ちたがるし、何かしら向上したがるものらしい。少なくとも大多数の人がそれを「いいこと」だと信じている。  そして、「恵まれない人間に比べた自分や他人」というものが、とても気になる生き物らしい。  人生で何度も繰り返し言われる言葉というものが、人にはあると思う。  私の場合は、「もっと頑張りなさい」「感謝しなさい」「もっと打ち明けて」だった。    私に与えられた言葉たちを、噛み砕くとこうだ。 「あなたのかわいそうな姉の分まで、恵まれているあなたは頑張らなくてはならない」     
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