《Chapter-01》 Window

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◆◇◆【宇宙日誌】西暦2201.4.15 ログイン⇒ 西暦23世紀初頭。地上は神から見放され、悪魔の支配が色濃くなっていた。放射能という『見えざる洪水』に地球は飲み込まれた。 そんな悪魔の洪水から逃れるため、SSアーク号は、宇宙ステーションCOSMO ISLANDを出航した。小さな移民団と地球を代表する生物のDNAサンプルを乗せて、新天地を目指している。 私の名はノア・エイロン(Noah Aron)。出航間際にSSアーク号新船長に任命された。 本船の航海記録『宇宙日誌』は、今日から私の責務となる。Video Logが通例だが、私はVoice Logで行うことにした。その方が人目も気にせず記録できる。 例えば、下着姿でも構わないし、情事の女性が寄り添っていても心配ない。 ……という冗談はさて置き、実は趣味である古典音楽鑑賞が楽しめるからである。好きな曲をBGMに録音することで、面倒な日誌にも楽しみが加わるというものだ。 記録媒体には新開発のリング状光ディスク『RPD』(Ringed Photon Disc)を用いる。コンパクトな掌サイズで、虹色に輝くディスクは耐久性にも優れる。 因みに、再生装置は不要で、肉声などをダイレクトに録音・再生する。マイクやスピーカーなどと言う骨董品も必要ない。ディスク周囲の空気分子を直接振動させることで、空間にその仮想装置を構築して行う。 私は、『TALKING RING』(喋るリング)と愛称で呼んでいる。 更に、電源などと言う外部からのエネルギー供給は不要。基材内部の格子振動量子(Phonon)を、電子流(Electron)に変換することで内部的に電源を得ている。 この技術を応用すれば、フォノン量子電池の開発にも繋がる。量子電池は夢の永久機関の動力源となり、人類のエネルギー問題は解消される。 これら量子工学の技術は、生命工学専攻の私にとっては専門外の分野だが。趣味が高じて発明にまで至ってしまった自慢の装置である。
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