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それは、黒い箱だった。この惑星において、すべてのものは砂と化してしまったはずなのに、その箱は、箱としての形を維持したまま、そこにあった。ドラゴンにとっては手の中に収まる程度の箱の表面を、好奇心に任せて引っかいた。すると箱はあっけなくひび割れて、割れ目から白い煙が噴き出してくる。びっくりして手で塞ぐが、ドラゴンの手には凹凸が多い。煙はドラゴンの手をすり抜け、どんどん流れ漏れていく。
「あわわわわわわ…!?」
とんでもないことをやらかしたのではないだろうか。ドラゴンは混乱しながら、もう片方の手を動員しようとした。だが、怪力のドラゴンに繊細な力加減は難しく、ちょっとぶつかってしまったところにまた新しいヒビが生まれ、そこからまた、新たな煙が噴出し始める。
「ど、どうしよう!? どうしよう!? どうすればいいのかな!?」
さらに混乱を極めるドラゴンの耳に、再び異変が届く。甲高いその音は、聞くだけで身を竦ませてしまう力を持っていた。……サイレンだ。
黒い箱の中央、その一部がサイレンをけたたましく響かせながら、ゆっくり開き始める。ただでさえ漏れ始めていた白い煙は、その中からどんどん溢れ……そして、散っていく。なんだかわからないけど、とても恐ろしくなって、ドラゴンは体を丸めて逃げ出した。ここは砂しかないから、身を隠す場所は限られている。結局、ちょっと距離を取ったところから覗き込むことしかできなかった。
『緊急解凍、終了しました』
声が、サイレンに紛れて聞こえた。……遠い記憶によるところでは、それは、人の声に酷似した、されど異質なものだった。
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