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煙が急激に晴れていく。黒い箱から、誰かが出てくる。
――いったい、どれくらい久しぶりにそれを見ただろう。それは、ドラゴンの記憶が確かならば、紛れもなく、人だった。
黒髪をくるりと丸めてまとめた、小柄な少女だ。彼女は箱から出て、伸びをして、そして、こちらを見た。
「…………」
「…………」
目と目が合う。少女はとび色の瞳でこちらを見て、そして。
「どええええええええええええええ!?」
大声を上げた。威嚇か、あるいは雄たけびか。どちらにせよ、よからぬもの、とても恐ろしいものではないかと、ドラゴンは感じた。
「うわああああああああああああ!?」
感じてしまったものから逃げるため、ドラゴンは少女の叫びに腰が抜けそうになりながら、駆け出した。
(怖い、怖い、怖い、怖い!)
ただそれだけを考えて、前だけ見つめて走った。
「ちょっ、ちょっと、ちょっと待て!」
後ろから、少女の声がかかる。
「うわあああああん、無理、無理ですー!」
「はぁ!? なんで!? 待てよ、あんた!」
少女の声色が、険しいものになった。恐怖はますます加速して、ドラゴンの足もまた、さらに速度を上げる。
「無理ったら無理ですー! って、うわああああああ!」
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