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恐る恐る、そう声をかけてみる。少女は目を丸くして、やがて小さく一度頷き、立ち上がる。ベージュの服についた砂を、手ではたいて落とし始めた。
「ああ、うん、大丈夫、大丈夫。超元気。今からフルマラソン千周できそうなくらいだし」
「フルマラソン?」
「そ、四十二キロくらい余裕で走れそうってこと」
「四十二キロ?」
「たぶんここからあっちの方まで」
少女は地平線の方を指差した。四十二キロは、ドラゴンの翼ではきっと一瞬で飛んでいける距離だった。でも少女の体で走っていくのは、なかなか気が遠くなる距離だろう。
「んで? あんた誰」
「僕? わからない」
「ああ、そう? そりゃ困ったわ。あんたが何者かぜひ知りたいところだったんだけど」
「うん……ごめんなさい。あ、でも、最後に会った人は、僕を見てドラゴンって言ってたよ」
「あー、なるほど。見たまんまねー。あたしはまひろ。飯田まひろ」
「イーダマヒロ」
「……なんか違うけど、そう。まひろでいい」
「ん」
「で、ここどこ?」
「ここ? わからない」
「……あんた、何ならわかるわけ?」
「この世界には、僕が一人ということ。あと、砂遊びは楽しいということ……くらいかなあ?」
「以上?」
「以上」
「はー、情報過多な世の中って言われてたのにねえ。時代はいつだって逆行してるわ」
「そうだねえ?」
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