第1章

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 対策本部は今回の食い逃げ事件を解決するために金田が提案した作戦を決行した。提案した金田自身この作戦を現実にできる自信はそこまでなかった。なぜなら、この作戦の決行のためにはまず管理局長官の協力が不可欠だったからだ。管理局局長と対策本部松木本部長が同じ大学の出身という情報を得た金田はその間柄に可能性をかけたのだ。結果は肩透かしを食らうほどすんなりと話は進んだ。管理局局長は三日間、食べ放題キャンペーンをしている店の警護を許可したのだ。ポイント521に警官を配備するというのは異例のことだ。一歩間違えればポイント521の信用問題にも関わってくるからだ。この事件に対する覚悟のほどがうかがえる。  だが犯人もそのことは重々承知している。その上で配備される警官たちのいる店に食い逃げをしようとはさすがに考えないだろう。しかし、それでは犯人を捕まえることは出来ない。そこで本部は食べ放題メニューを出している店の中で数件警護しない店を決めた。なるべく自然に警備の穴になった店を数件用意する。犯人にこの店は警察が見逃した場所だと思い込ませるためだ。犯人は相当の大食漢であり、連日のように事件を起こしている。この手の犯人は大体自分に酔って、犯行を重ねる。自分を捕まえられるわけがないと嘲笑いながら。  金田は手の中に流れた汗をズボンで拭った。金田はすぐに犯人を確保したかった。そして、正体、目的、手段、犯人のすべてを知りたかった。管理局がこれだけ協力したという事実が管理局はこの事件とは無関係かもしれないという考えを金田の脳内に与えていた。だとしたら犯人はどうやって管理局の強大な魔法を破ったのだろうか?金田はまずそれを知りたかった。  もう一度手の汗を拭う。もうすぐ奴は動くはずだ。奴が店に入ろうとする瞬間に捕まえてやる。態勢を整え、伊藤の動作一つ一つに注意を払う。胸が波打つ緊張はあったが、不安や恐怖はなかった。罠を張った数軒の店の中で金田が待ち構えていたこの店に伊藤が来たことに金田は運命のようなものを感じていた。  伊藤が店のドアノブに手をかけた。今だ!金田の身体は自分の意識を超えて、伊藤の方に向かって走っていた。向かってくる金田に伊藤も気づいたがその時にはもう遅かった。伊藤の足を払いのけ、地面に叩きつける。呼吸する暇も与えず関節技を決める。所詮は素人が相手、制圧するのに数秒もかからなかった。
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