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「それで管理局への協力を拒んだということか?」
「ああ、その場で二度と来るなとそいつらを店から追い出したら、次の日には店を開いていた土地の支配人やら出資していたスポンサーやらに見捨てられ、あっけなく閉店したよ。食い逃げ事件一つで俺の夢は終わってしまった」
空を見上げる伊藤の顔は遠い過去を見ている。金田はそう思った。それがどんな過去なのかを金田は知らない。だが、金田は確信していた。伊藤はその過去に少なくとも後悔はしていないだろうと。遠い顔を見る伊藤の目はまだ死んでいない。
「店をつぶされた俺は次の日からこの都市のいろんな料理店を調べ歩いた。俺のように食い逃げの被害にあった店が必ずあると思っていたからだ。だが、なかなかうまくいかなかった。いくら話を聞こうとしても誰もまともに取り合ってもくれない。そいつらが魔法都市を完璧だと思い込んでいるのか、それとも管理局の奴らに黙らされているのか俺には分からなかったが、とにかく、上手くいってなかった。もう手がかりなんて掴めないかもしれないと思い始めていたその時、あんた達、警察がこの都市に現れた」
伊藤がじっと金田の顔を見る。
「でも、何にも進展しない。正直失望したよ。警察も管理局も頼りにならないなら俺がやるしかないと思って、今日も調査していただけだ」
「じゃあ今日あの店に入ろうとしたのは?」
「え?いや、あれはただ腹が減ったから・・・・ほら、なんか今日に限って色んな店に警察がいるから入りにくくて」
ついため息が漏れる。自分の作戦が望んでいない相手を釣ってしまったことに少し落ち込んだ。金田はすっと立ち上がって、汚れを落とすためにズボンを軽く叩いた。
「話は分かった。調べたらすぐに嘘か本当分かる。今のところは信用するよ」
「そりゃあ、ありがとう」
二人の間にまた沈黙が訪れた。お互いに何を言えばいいか分からないという沈黙だ。そんな沈黙に先に切り込んだのは金田だった。
「大変だったな。夢を理不尽にも奪われた苦しみ。それは俺には分からない。だから同情も共感もできないけど、気の毒だとは思うよ」
金田の言葉に戸惑ったのか、伊藤は顔をそむけた。金田も続く言葉も見つけられず伊藤の言葉を待った。
「あんた悪い人ではなさそうだな」
「え?」
「俺は警察も管理局も信用してないが、あんたなら少しは信じられるかもしれない」
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