第1章

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 「あ ありがとう・・・・・」  金田は軽く頭を下げた。伊藤から漏れた優しい言葉と顔に金田は単純に照れ臭さを感じていた。  そんな気のゆるみもあったせいなのか、金田の腹が猛獣のうねり声のような獰猛な音を響かせた。伊藤のきょとんとした顔が金田に向けられる。この状況に金田は赤面せずにいられなかった。  「腹減っているのか?」  口に手を当てて金田は頷く。その時、伊藤の目が輝きだした。まるで宝箱を見つけた冒険者のような目だった。  「俺が何か作ってやるよ。腹が減っては戦が出来ぬ!犯人を見つけるためにも腹ごしらえをしないと!」  「すまない。助かるよ」  本当は断ろうと思っていた金田だったが、気づいた時には即答していた。空腹の前ではどんな感情も無意味だということに金田は改めて気づいた。  「さあ、召し上がれ」  ぼろぼろの木造一軒にはまるでそぐわない豪華な洋食が金田の前に広げられた。彼の家だというこの家は正直きれいとは言えないが、この料理を作るための台所だけは一流料理店にも負けない美しさを保っていた。  「これ全部食べていいのか?」  「もちろんだ!」  伊藤の屈託のない笑顔を浮かべた。並べられた料理は確かにおいしそうだがその量に金田は少し困惑していた。軽く十人前以上はある。これを一人で食べるのは不可能だ。  「ちょっと作りすぎたか?」  ちょっとどころの騒ぎではない。  「じゃあ、いただきます・・・・・」  金田は料理に手を付け始めた。味は文句のつけようのない美味しさだった。  「久しぶりだからちょっと張り切りすぎたな!こんなに作るのは・・」  エプロンを脱いで金田の向かいに座った伊藤の言葉が詰まった。思い出したくない過去をつい思い出してしまった。そんな顔をしていた。しかし、そんな顔をしながらも伊藤は言葉をつづけた。  「食い逃げされた日以来だ」  「食い逃げされた日?その日にこれだけの量を作ったのか?」  金田は驚きで詰まりそうになる料理を喉の奥に押し込んで聞いた。  「俺の店も食い放題サービスをしていたからな。犯人はかなり大食い、巨漢に違いないはずだ」  違う。金田は心の中でつぶやいた。これだけの量を一人で食べきるのは不可能だ。つまり、食い逃げをした犯人はその場では食べずにどこかに持ち帰った。他の人たちと分け合うために。
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