第1章

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 「すごくおいしいよ。こんなにおいしいものを食べたのは本当に久しぶりだよ」  金田は作り笑いを浮かべた。料理は確かにおいしい。こんな料理は魔法都市ができてから食べた記憶がない。そんな料理を堪能出来ることは大きな幸せのはずだ。しかし、その幸せも金田の頭に浮かんだ小さな推測が飲み込もうとしていた。    「高下、お前、今日も昼食べなくてもいいのか?」  対策本部会議が終了した後の昼休み、金田は同僚の高下剛に声をかけた。同期として働き始めて時から転がしたくような丸い体形をしている同僚の生活の変化を金田はただただ心配していた。  「いや、ほら、最近魔法都市で起きた事件を解決するために皆普段の仕事もこなしながら事件を追っているじゃないか。そのせいで俺なんかは食欲も減ってきて」  「あんまり無理するなよ」  高下は軽い笑顔を作るとそのまま先輩刑事のもとへ走っていった。高下の笑顔と言葉が揺れていた金田の心を射抜いた。  俺一人では何もできない。金田は自分の無力をかみ締めた。加賀さんに話そう。俺が調べたすべてを。事件解決のためにはあの人の力が必要だ。  金田は購買で手に入れたパンを口に放り込んで加賀のデスクまで走った。  「魔法都市では数年前から食い逃げ事件が起こっていた。その事件をどういうわけか管理局はそれを黙認している。それがお前の考えか?」加賀は自分のイスに深く腰掛け、金田に聞いた。  「はい。すでに事件について調べている伊藤良助の情報も得ています。ただ・・・」  「どうした?」  「今回の事件の犯人、捕まったらどうなるのでしょうか?」金田は持っていた資料をただただ見下ろした。その目は躊躇いを孕んでいた。  「伊藤良助の話を聞いてから私は魔法都市の内部事情を詳しく洗ってみました。いや、そんなことしなくてもあの都市を少し注意深く歩き回ってみれば分かります。あの都市も他のところと変わらない。今日を生きるのに精一杯の人が確かにいる」  「そいつらが魔法をかいくぐる方法を見つけて食い逃げをしたと?だったらなぜ、管理局はそれを見逃す?」  「管理局も鬼ではないということではないでしょうか。食い逃げを黙認しているのはそんな人たちを助けたいという気持ちがあるから。でも、それを食い逃げ事件としてもみ消すという形をとっているのは魔法都市の名誉に執着があるからではないでしょうか?」
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