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魔法なんてなければこんな水に浸したようなカツ丼を食べることもなかっただろうに。加賀一郎刑事は食堂のカツ丼を口に頬張ったまま軽くため息をついた。いつからだっただろう。食事がこれほど退屈になったのは?食事の度に加賀刑事はふと思う。あの都市が出来てからというもの食事をおいしく食べた記憶がない。
カツ丼を食べ終えた加賀刑事は急いで一階の食堂を出て、三階にある自分の席まで駆け上がっていった。自席には溜まりつくした各地の犯罪の報告書が散乱していた。加賀はその中にある一つの資料を取り、係長のデスクまで持っていった。
「係長、強盗事件の犯人の取り調べ、私の担当のはずですよね?何故担当が新人の伊藤に代えられているのですか?」
「確かに逮捕したのは君だが、君には他の凶悪事件解決に尽力してほしい。尋問だけなら今の時代、新人でもできるしね」白髪の混じった髪をいじりながら係長は加賀の顔を見た。
「なぜ、彼があのような犯行に及んだのか。私には誰よりも聞き出せる自信があります。そして、犯人の心理を知ることこそが今の警察に最も必要なことで」
「まあまあ、君の熱意は伝わったが、その熱意を別の事件の開花悦に向けてくれないかね?尋問も新人のうちに経験させておく必要がある仕事の一つだしね」
「了解しました・・・」加賀はしぶしぶ係長の指示を受け入れた。
加賀は自席に戻り淡々と事件の調査ファイルを作り始めた。
「先輩!!」
聞き覚えのあるけたたましく若い声がドアを蹴り破って加賀の耳に飛び込んできた。
「金田、遅かったじゃないか。報告書を作っているからちょっと手伝ってくれないか」
その時、加賀は金田の様子に驚いた。金田の顔は驚愕と恐怖の色に染められていたのだ。
「先輩・・・食い逃げです」
「何?食い逃げ?」
「食い逃げが発生しました」
あんな顔をするから何事かと思えば・・・・・加賀は椅子に深くもたれて深くため息をついた。
「金田、君も分かっているとは思うが、我々には食い逃げ事件を追っている時間はない。常識だろう?その手の事件は近くの交番に任せておかなくてはとてもすべての犯罪を追うことなどできないぞ」
加賀の言葉など耳に入っていないのか、頷きもせず、金田は鬼気迫る顔で加賀に迫った。
「問題は事件そのものではありません。場所です」
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