第1章

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 「そんなこと気にするだけ時間の無駄だからだよ。その怪しいやつが懐に拳銃を隠し持っていて俺を撃ち殺すつもりでも、この町にいる限り自分には何の関係もないからな」  店長は不機嫌な顔をして軽く舌打ちをした。その体は微かに震えていた。  「そう思っていたのに。ハハハ」  店長の目に暗い色が映った。  「そうだよ。久しぶりに思い出したよ。恐ろしいという気持ちをさ」  金田は先ほどまで横柄な態度をとり続けていた被害者に少なからず同情した。それほど店長の恐怖が金田に伝わったからだ。  夜が遅いのか、高速道路には金田たち以外の車はもう走っていなかった。金田は今日一日を振り返ってハンドルを強く握った。まだ捜査開始から一日目、それほどの証拠が集められないことはわかっていたが、それでも直接現場まで訪れたのに大した手掛かりを得られなかったことは金田に予想以上の落胆と疲れを与えていた。  「やはり、ポイント521の魔法管理局関係者から調べていった方が良いのかもしれませんね」  金田はボソッと呟いた。魔法管理局、簡単に言えばこの都市の創設者たちが都市にかけた魔法を管理する局、魔法都市のトップだ。  「それがお前の推理か?」  助手席に座っていた加賀は腕を組み無表情のまま、金田に尋ねた。  「推理というほどのものではありませんよ。今回の事件は殺人や強盗ではなく、食い逃げですからね。ただでさえ証拠が少ない。だから可能性からつぶしていくべきだと思うだけです。そう考えると現時点で一番怪しいのはポイント251を造り、管理している人々。つまり管理局の上層部です」  「管理局のお坊ちゃま達が自分たちの魔法都市の評判を落とすような危険まで冒して食い逃げをしたと?少し冷静になった方がいいぞ、金田」  そんなことありえない。加太の嘲笑からはそんな言葉が飛び出してきそうだった。  「今回の事件を偶然見つけたのは私です。もし私が見つけなければ管理局の連中は事件をもみ消すつもりだったに違いありません。刑事にある私に知られてしまったことが奴らの誤算だったということですよ!」  金田は自分の考えた推測を話せば話すほどその推測が真実味を増していくような気がした。もう金田の頭の中では管理局の裏の顔がこの事件の鍵を握っていると確信していた。  「金田、お前、本気でそう思っているのか?可能性だけでぶつかれるような相手ではないぞ」
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