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一
吾輩は犬である。オス(人間で言えば男)で、年齢は二歳と半年弱(人間でいえば、二十四、五歳というイケイケの年頃)。名前は「チビ」である。ご主人様が、吾輩の見た目だけでつけた名前である。でも、吾輩はチワワなので、もともと小さいのである。つまり、ご主人様は、命名にあって何も考えていないということだ。吾輩の気持ちも少しは汲んでほしいと思うが、とてもじゃないが怖くて言えない。だいたいペットショップにいた吾輩のイケメンさに一目惚れしたということでこの家に連れてこられたというのに、名前はいい加減だし、日頃の世話だって、やってくれるのは、お手伝いの和美さん。ごくたまに気分が乗った時だけママがやってくれることがあるけれど、ご主人様はまずない。肝心のご主人様は、自分が側にいてほしい時だけ可愛がってくれるというワガママさ。それでもご主人様はご主人様。吾輩はただの下僕に過ぎないので、文句は言えないのである。
なにせ、ご主人様は女王様というか女帝であるので、優雅で優美なのだけど、いい意味でも悪い意味でも『飛んだ』感覚のクセの強い持ち主で自由人なので、しょうがないと諦めている。
ちなみに、夏目漱石とかいう有名作家が書いた『吾輩は猫である』という小説があるらしいが、その小説に出てくる猫には名前がないらしい。どうやら、『猫(ねこ)』というのを呼び名にしてはいたらしいが、これまたドイヒー、可哀そうだ。吾輩のご主人様とたいしてかわらない。人権蹂躙だ。いや、猫権蹂躙だ。なお、その小説の猫のご主人様の名前は、珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)というとぼけた名前らしい。でも、吾輩のご主人様の苗字も月雪(つきゆき)、だから、どうやら似た者同士らしい。
今のところ、吾輩には恋人いや恋犬はまだいない。『吾輩は猫である』に出てくる「三毛子」のような、可愛い人いや犬が現れてほしいと思っている今日この頃である。
というわけで、その小説をまねて『吾輩』などと言ってみたが、古臭いので、これからは『僕』と言わせてもらうことにする。
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