第三章 無謬の鉄筆

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 五 「台座か?」  ネウィルの冷静な声に、メルとジンも石棺から跳び退いた。  石棺が、いや石棺の台座がずりずりと持ち上がっている。それにつれ、床下に隠れていた部分が少しずつ露わになってくる。  やがて台座の動きは止まった。  台座の秘されていた下半分には、白と金色に彩られたレリーフが施されている。どうやら踊るような姿勢で横向きに彫りこまれた、小柄な骸骨のようだ。大きな眼窩に突き出した鼻先、それに頑強な手脚。多分、古代爬虫人の全身骨格だろう。  その骸骨像の顔が、突然ぴきっとこちらを向いた。 「ひゃっ!」  髪が逆立つふわふわした感覚を覚え、メルが悲鳴を上げた。  頭から血の気の退いた彼女の目の前で、骸骨が台座からぴきぴきと全身を引き剥がしてゆく。  ものの数秒と経たないうちに、奇怪な骸骨はその全身を露わにした。白く磨き上げられた骨の一つ一つに金色の文字が刻み込まれていて、何か魔術的な加工が施されているようだ。その両手には、直刃の短剣が鈍く光っている。 「な、何あれ」  初めて目の当たりにする異形の怪物に、メルの全身にも声にも震えが走る。足がすくんで立ち尽くすばかりの彼女の手が、ぐいと引っ張られた。     
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