序章

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序章

「『我は高らかに鳴らさん。神の鐘を。定めとしきたりに従いて』……、っと」  ふわりとした純白の法衣に身を包んだ少女は、細長い高く澄んだ声で口ずさみ、手の中の筆記具を握り直した。  今、その少女の目の前にあるのは、数歩四方の小部屋の真ん中に鎮座する、見上げるような大理石の祭壇。  遥か上方の天窓から差す清廉な光を浴びて、方錘形の祭壇には、数え切れない数の奇妙な図形が整然と浮かび上がる。その一つ一つが、この中央万神殿に祀られた全ての神々の聖印に他ならない。  そんな無数の聖印に囲まれて、祭壇の正面部分に嵌めこまれているのは、一枚の四角い石板。何も書かれていない灰色の表面を見つめつつ、少女はペンにも似た濃緑色の滑石を石板に当てた。そして今口にした言葉を石板に書き記し、その文字をなぞるように、ゆっくりと指を滑らせる。  刹那、灰色の起動石板に記された文字が、ぼんやりとした蒼い光を帯びた。秘文字の魔力が解き放たれ、書記聖術が発動する。  と、その途端、この広大で荘厳な神殿、中央万神殿の鐘が一斉に鳴り出した。  それも一つや二つではない。四方八方から、頭を締め付け鼓膜も破るばかりの大音響が、神殿を覆い尽くす。     
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