第二章 サッカーラ・キャラバン

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「相変わらずですね、ローサイト卿は。しかし昨日のローサイト卿には驚きました。あんなに取り乱したローサイト卿は、僕も初めてです」 「どういうことですか?」  尋ねたメルの瞳には、ルシエの虹色の目が穏やかに笑って映る。 「あなたが“鳥撃(バード・ストライク)”で墜落したあと、ローサイト卿は強い気流に流されて、あなたを見失ったらしいのです。それからすぐに、ローサイト卿はここへ来られました」  彼は厭味のない調子で、小さく笑う。 「ローサイト卿は、すぐにあなたを探しに戻る、と言い張って聞きませんでした。その時の彼の狼狽ぶり、僕たちとローサイト卿のお付き合いはかれこれ十数年になりますが、あんなローサイト卿は初めて見ました」  メルはうつむいた。  自分のドジが彼を激しく心配させた、その後悔がもう一度胸を重く塞ぐ。その一方で、歪んだ安堵感と嬉しさが湧いてくるのは否定できない。自己嫌悪を覚え、さらに深くうなだれたメルだった。 「ローサイト卿を引き留めたのは、僕です。もう日没でしたし、二重遭難になっては元も子もない。あなたも一晩不安に晒してしまい、済みませんでした」 「あ、ヤダ、わたしこそ、本当にごめんなさい。全部、わたしのドジのせいで……」  メルは、謙虚に詫びたルシエに向かって、おたおたと頭を下げた。  そんなメルに、彼が微笑んで告げる。     
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