第三章 無謬の鉄筆

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「え、え? どういうって」  ちょっぴりどぎまぎしつつ、メルは返事に詰まった。どう答えたらいいのか、困ったメルはネウィルを見上げた。  そのネウィルが、彼女を見ずに答える。 「従妹だ」 「従妹? それだけか?」 「それだけだ」  たったの一言はっきり答え、ネウィルはジンに聞き返す。 「すぐに出られるか?」 「ああ。いーぜ。商売道具はいつも持ってっからよ。オレの幕屋に寄ンなくても大丈夫だ……、って」  ジンの黒い目が、何となく寂しさに覆われるメルに向けられた。横目の視線を彼女に注ぎながら、ジンがずけずけと言い放つ。 「何で騎士サンが仕切ってんだよ。オレの雇い主は、オメーだっつの。オメーが仕切れよ」 「え、え? えと」  思わず裏返った声を上げたメルだった。  しかし、ジンの主張はもっともだ。ネウィルも兜の奥で苦笑している。騎士の苦笑の意味に思いを巡らせつつ、メルは小さく息を整えた。そして、挑戦的な態度で腕組みするジンに向き直り、彼を正視する。 「わたしは、今から聖句を見た場所へ、ピアンキ王のお墓を探しに行く。ジンも一緒に来てくれる?」 「おう、いーぜ」  緊張に震えるメルの初指令だが、ジンは冷やかしたりする風もなく、快くうなずいた。     
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