第四章 王家の呪い

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 メルはふと隣に座るネウィルを見上げた。彼もまたメルを見ている。表情はいつに変わらず飄々としているが、口元は温かい。  ネウィルが小さくうなずいたのを見て、メルはルシエを正視する。 「え、えと、できたらもうちょっとだけ、ここにいたいな、と思います。いいですか?」 「もちろんですとも」  間髪を入れず、ルシエが答える。 「いろいろな旅人の寄る宿営地ですから、宿もあります。心行くまで逗留するとよいでしょう」 「それなら良い宿がありますよ」  ルシアもうなずく。両手で悪戯っぽく頬杖をつく彼女は、好意的な笑顔をメルに見せている。 「小さいけれど、この大陸の一般的な建物です。私たち砂精人の幕屋やハンモックではないから、きっとメルローチェさんも気持ちよく泊まれると思いますよ」 「その宿なら知っている。悪くない宿だが、お前も泊まってみるか? メルローチェ」  ネウィルも淡々と口を挟む。  考えてみたら、神殿集落でも外泊などほとんど経験がない。そんなメルの初めての外泊が鏖殺の地という荒野の只中、しかもジンの幕屋だったというのも、スゴい話だ。  ふと可笑しさがこみ上げて来て、くすっと笑ったメルだった。彼女は不思議そうな眼差しのネウィルに、笑顔でうなずく。     
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