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第一章 悩める書記
一
白い法衣姿のまま、少女メルローチェはふらふらと庭園にさまよい出た。途端に、さんさんと降り注ぐ陽光が彼女の目を射抜く。
……ああ、明るい。まぶし過ぎる。
薔薇の生垣に囲まれたこの庭園は、まばゆいばかりの光に溢れる。中央万神殿の敷地と繋がったこの庭園は、神殿にゆかりのある人々の憩いの場となっていて、あちこちに神官や僧侶、巡礼者の姿が見える。
晴れ渡った空の下、庭園の真ん中にどんよりと立ち尽くした彼女は、深いため息をついた。
とその時、彼女の耳に、柔らかな女性の呼び声が聞こえてきた。
「あら、メル」
はっと向き直ると、小さな東屋に一人の女性が立っている。
ふわっとした白い法衣のうら若い女性、白銀のサモワールと白い茶器をガーデンテーブルに設えて、お茶の準備中といったところだろうか。
メルは、その癒しに満ちた女性の声と姿に誘われて、ふらふらと東屋に歩み寄る。
そんな意気消沈のメルの姿を見て、彼女もよく知るその女性が、厭味のない穏やかな笑みを見せた。
「さっきの大騒ぎ、もしかしてまたあなたかしら? 大丈夫?」
「大丈夫じゃない。お父さまにがっちり絞られた……」
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