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「おい、見てみろよ」ふいにエツジが声をかけてきた。あごで示した前方を見ると炎天下の中、目立つピンク色のシャツを着た女の子が一人で地面にしゃがみ込んでいた。「あいつだ。本の虫」
倉田ミノリだ。下の名前は漢字が難しく分からない。小1のころからの同級生で、今はぼくやエツジと同じクラス。いつも本ばかり読んでいて友達もいないみたいだからか、本の虫と呼ばれている。
「あんなところで何やってるんだろ」ぼくは疑問を口にした。
「知らねーよ。あいつ変だもん」
「熱中症とか」
「それってあれか?何かに熱中してるヤツの事を言うのか?だったらそうじゃね」
「いや、ジョーダンじゃなくって」
そうこうしている間にミノリの隣を通り抜けた。ひどい暑さの中、うずくまる彼女のおでこには、汗で前髪がべったりと貼りついていた。けれどそんなことは眼中にないようだ。ミノリのその大きな目は地面に釘付けになっていた。ぼくらの声も聞こえていないようだ。
「な、変だろ。熱中症だな」
「大丈夫かな」
「へーきだろ。てか関わりたくない」
ぼくは気になりながらも、エツジについてプールに向かった。
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