読書感想文の倒し方

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 その後ぼくらは一度すっぽんぽんになってから水着に着替え、水の中で騒ぎまくった。エツジは本当に何も心配事なんてないみたいにはしゃいでいたけど、ぼくはミノリの事が頭の端に引っかかっていて、そこに何でか400字かける4枚までちらついてきて、あまり夢中になれなかった。読書感想文はもう終わらせたのに!そう言い聞かせても、原稿用紙がいつまでもちらちらしていた。  「いやー、夏の最後の思い出ってやつだな」エツジはぬれた髪を夕日に照らしながらさわやかな笑顔を見せた。  「そーだねー。エツジは今から宿題を終わらせないとだもんね」  「イヤなこと思い出させんなよー。あーあ、楽しい夏休み、何で終わるかなー」  「ぼくはもう終わってるからゲームでもしよーっと」  「ずりーぞ!勝手に先進むなよ!てか写させてよ」  「だから自分でやれって」  あーだりー、とさっきまでの気楽さはどこへやら、エツジはぶうぶう帰っていった。  ぼくも帰ろう。そう思いつつも目で探してしまう。そして見つけてしまった。ミノリは同じところに昼過ぎの格好のまま、いた。ほんと何してるんだ。ぼくは自転車を引きずりながら近づいた。けれどミノリは気づいていないのか、ふり返ることもなかった。  「倉田さん、何してるの?」そう声をかけるとようやくこちらを見上げた。ビー玉みたいに大きな目、一文字に結ばれた口、丸い顔。広いおでこにはさっきと変わらず前髪がくっついている。肩までの髪は細い首にも巻きついていて、所々束になっていた。  「アリを見てたの」ミノリはぼくの目をじっと見ながら答えた。  「アリ?何でアリ?自由研究?」     
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