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頭が痛い。 川嶋は、手を額に当てようとして、それが自由にならないことに気づいた。 後ろ手に縛られている。 寝かされているのは、車の後部座席の上っぽい。 どこかへ移動しているのか、エンジンの振動が身体に響いていた。 熱があるからだろう、寒気を覚えるが、身体に纏っているのは宇賀神のパジャマ一枚だけだ。 「気がついたか?」 不意に車が止まって、ミラー越しにこちらを見る目がそう訊いてきた。 舐めるようにまとわりついてくる嫌な視線だ。 「あんたが昨日煽りまくるから、悩んでたけどとうとう裏切っちまった」 唐突にそう言われても、何のことだか話が見えない。 昨日? あ、と川嶋は、そのミラー越しの目に覚えがあることに気づいた。 昨日の運転手だ。 宇賀神に見るな、と命令されていたにも関わらず、チラチラ見ていたのを川嶋は気づいていた。 それを宇賀神に伝えれば手酷い制裁を受けるだろうし、川嶋も宇賀神の手でそれどころじゃなくなっていたから、そのまま放置してしまったのだが。 「とりあえず、あちらさんにあんたを渡すまでまだ時間がある…」 あちらさん、は宇賀神の敵対組織か。 川嶋は自分の置かれている状況を瞬時に理解した。 熱のせいではない寒気が全身に鳥肌を立てる。 「暇潰しに、愉しませて貰おうかな…あの宇賀神龍之介を虜にする躰とやらを」 嫌だ、止めろ、と叫んだつもりが、風邪で傷めた喉は声を出してくれない。 運転席から窮屈そうに後部座席に移ってくる男に、川嶋は自由にならない身体を必死に捩って少しでも離れようとするが。 乱暴に引き寄せられて、布一枚とはいえ身体を覆ってくれていたパジャマのボタンを引きちぎるようにして はだけられた。 「すげぇな」 ごくりとその男は息を飲んだ。 「あんた確か若頭と同い年だろ?これが30手前の男の肌かよ」 宇賀神以外の人間に裸をじろじろ見られることは、川嶋にとって思い出したくない記憶を引きずり出される行為だ。 「っ……っ!」 呼吸が速くなる。 ここで過呼吸の発作を起こしたら完全に相手のいいようにされてしまう。 そうは思っても自分の意思では止められない。
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