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電話の向こうの相手、宇賀神龍之介は、焦れたようにそう言った。 そして。 「着くまで切るなよ。お前の声を聞いていたい」 そんな無茶を言い放った。 「僕、喋らないよ?」 ちょっと寝たいから。 川嶋だって宇賀神との久しぶりの逢瀬が嬉しくないわけじゃない。 だけど、当然のように、これから宇賀神がすぐに寝かせてくれるはずはない。 川嶋は、今は本当に疲れているのだ。 会う前に少しでも寝て体力を回復しておきたい。 「じゃあ寝ててもいい。寝息を聞いてるから、そのままにしてろ。お前と繋がってたい」 宇賀神は譲らない。 まるで駄々っ子のようだ。 そういえば、小6で出逢ってから今まで、2週間も会わなかったのは初めてかもしれない。 仕方がないので電話は通話にしたまま、川嶋は睡魔に身を任ようとした。 そのとき。 「前を走ってるのがお前の乗ってるタクシーか?」 不意にそう言われ、堕ちかかった意識を引き戻される。 後ろを振り向くと、眩しいヘッドライトの光の向こう、黒っぽい車の影が見えた。 こんな時間に、なかなか車は走っていない場所だ。 そして、運転手も助手席に乗っている男も、夜だと言うのにサングラスをして、明らかに強面の男だ。 眠りそびれた。 川嶋は小さくため息をついた。 「すみません、ここで止めて下さい」 運転席に向かって言うと、馴染みの運転手が驚いたように「え?」と聞き返した。 「今日はここで大丈夫なので」 スーツの内ポケットから財布を取り出すと、運転手は戸惑いながらも車を止めた。 「アキ」 タクシーのドアを閉めるや否や、後方に止めた車から先に降りていた宇賀神に抱き締められる。 宇賀神は190センチを超える大男で、小柄な川嶋とは25センチ近い差がある。 更に武道全般やボクシング、格闘系の競技の稽古を常に欠かさないだけあって、太っているわけではないのに横幅も、細身で華奢な造りの川嶋の3倍はありそうで。 腕の中に包み込まれると、川嶋は外から全く見えない状態になると言っても過言ではない。 「会いたかった」 すっぽりと宇賀神の匂いにくるまれて、そのまま唇を塞がれる。 抵抗しても無駄なのはわかっているから、川嶋は貪られるままその舌に応える。 「……ん」 膝から力が抜けても、宇賀神の腕の中にいる限り崩れ落ちることはない。 半ば抱きかかえられるような状態で、ひたすら口の中を蹂躙されて。
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