657人が本棚に入れています
本棚に追加
電話の向こうの相手、宇賀神龍之介は、焦れたようにそう言った。
そして。
「着くまで切るなよ。お前の声を聞いていたい」
そんな無茶を言い放った。
「僕、喋らないよ?」
ちょっと寝たいから。
川嶋だって宇賀神との久しぶりの逢瀬が嬉しくないわけじゃない。
だけど、当然のように、これから宇賀神がすぐに寝かせてくれるはずはない。
川嶋は、今は本当に疲れているのだ。
会う前に少しでも寝て体力を回復しておきたい。
「じゃあ寝ててもいい。寝息を聞いてるから、そのままにしてろ。お前と繋がってたい」
宇賀神は譲らない。
まるで駄々っ子のようだ。
そういえば、小6で出逢ってから今まで、2週間も会わなかったのは初めてかもしれない。
仕方がないので電話は通話にしたまま、川嶋は睡魔に身を任ようとした。
そのとき。
「前を走ってるのがお前の乗ってるタクシーか?」
不意にそう言われ、堕ちかかった意識を引き戻される。
後ろを振り向くと、眩しいヘッドライトの光の向こう、黒っぽい車の影が見えた。
こんな時間に、なかなか車は走っていない場所だ。
そして、運転手も助手席に乗っている男も、夜だと言うのにサングラスをして、明らかに強面の男だ。
眠りそびれた。
川嶋は小さくため息をついた。
「すみません、ここで止めて下さい」
運転席に向かって言うと、馴染みの運転手が驚いたように「え?」と聞き返した。
「今日はここで大丈夫なので」
スーツの内ポケットから財布を取り出すと、運転手は戸惑いながらも車を止めた。
「アキ」
タクシーのドアを閉めるや否や、後方に止めた車から先に降りていた宇賀神に抱き締められる。
宇賀神は190センチを超える大男で、小柄な川嶋とは25センチ近い差がある。
更に武道全般やボクシング、格闘系の競技の稽古を常に欠かさないだけあって、太っているわけではないのに横幅も、細身で華奢な造りの川嶋の3倍はありそうで。
腕の中に包み込まれると、川嶋は外から全く見えない状態になると言っても過言ではない。
「会いたかった」
すっぽりと宇賀神の匂いにくるまれて、そのまま唇を塞がれる。
抵抗しても無駄なのはわかっているから、川嶋は貪られるままその舌に応える。
「……ん」
膝から力が抜けても、宇賀神の腕の中にいる限り崩れ落ちることはない。
半ば抱きかかえられるような状態で、ひたすら口の中を蹂躙されて。
最初のコメントを投稿しよう!