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私は何も知らないだけだ。
正直、捨てられたんだと思っていた。
今更父親だと言われても、おいそれと納得出来るわけがない。
20年も放って置かれた者の気持ちは?
紗倉老夫妻が拾ってくれたから、優しかったから、寂しくは無かった。
でも、親がいないことで嫌になるくらい虐められた。
……老夫妻に迷惑になるまいと我慢してきたことには変わりはないのだ。
だからと言って、目の前で涙を流している人を無碍に出来るほど私は強くない。
弱い人間だ。老夫妻亡き後、独りぼっちだった。
家族が生きているなら一緒にいたい気持ちだってある。
正直な思いは……複雑だ。
平々凡々と底辺で生きてきた人間が、いきなりお姫様だと言われても、どうしたらいいかわからない。
……欲張っていいんだろうか。
今まで苦労した分、幸せになっていいんだろうか。
不安ばかりが押し寄せる。
ゲームや小説みたいに起承転結ある未来はない。
現実だと言われても、私には夢の世界に思えてならない。
抓ったけど、痛かったけど、起きたらいつもの職安通いをしているかもしれない。
……ノアはいないかもしれない。
夢のようなイケメンが傍にいてくれるなんて、乙女ゲームのし過ぎが原因じゃないかと迷走までした。
私は瞳を伏せた。
そして、ゆっくりと開く。
横にいるノアを見た。
そこにいた。
初めて会ったそのままの、天使の微笑みを浮かべて私を見ていた。
……心臓に悪いくらい綺麗な笑顔。
私は拳を握り、決意を固めた。
「……自覚があるわけではありません。この20年色々ありました」
経済が復活しても就職して生活する見込みはない。
老夫妻が実の親ではないことは明確で、養女としていても、夫妻がいたからこそ身元保証人がいただけ。
今の私には、何も無かった。
後見人無くしては今後、路頭に迷う可能性の方が高い。
「……独りが疲れたから家族になります」
変な言い回しなのは分かっている。
けれど、いつか伝わって欲しい。
「……そうさな、今はそれでよい。お帰り、我が姫よ」
私は自分の意思でプリンセスになることを決めたのだ。
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