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用意された部屋に案内された。
部屋に入るとノアと二人きり。
ノアの顔をマジマジと見つめる。
「……ん? どうかされましたか? りら様」
私の視線に気がついても、驚いた様子もなく、優しく。
不思議だった。でも、考えてみれば当たり前だ。
ノアだって人間なんだから。
きっと私が女の子だから、……プリンセスだから優しいんだ。
そう思っても口に出せなかった。
だから、代わりに別のことを聞いた。
「グラドラシルって魔法大国なんですよね? ノアはどんな魔法を使えるんですか? 」
一瞬、本の一瞬。ノアの顔が強ばった、気がした。
「ああ、俺は……。"使えない"んです。適性がなくって」
恥ずかしそうに笑う。……だが、瞳は笑っておらず、寒気を感じた。
これ以上踏み込むなと言われている気がした。
……乙女ゲームでもあったな。こんなシチュエーション。
ゲームだからはっきり脅迫紛いの台詞までついて。
『とことん甘やかせてあげるから、詮索しないでよね』
そんな感じの、種類の台詞。
今正にそんな空気だ。
そもそも今日会ったばかりの人にあれこれ聞くほど野暮ではない。
「そうですか。人には適材適所ってありますものね」
そういう人もいておかしくない。
「……りら様」
「は、はい」
未だに慣れない。
「俺は貴女の執事なんですから、敬語を使われると困りますよ」
綺麗な困り顔をされた。
「は、はい! あ、うん! わ、わかった! 」
言葉とは裏腹に、心は冷静になっていた。
……完璧過ぎた。作り物感がした。
すべてを見透かすような瞳に少しばかり、恐怖も覚えた。
「流石です、りら様」
天使のような完璧な微笑み。
これを眼福という。
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