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私は今、馬車の中にいる。
公道に馬車なんて、5年前だったらありえなかった。
明治時代あたりならまだ違和感なかっただろう。
そして、目の前には……。
イケメンがいる! 執事の恰好をしたイケメンが!
未だに私は状況が掴めていない。
「……様、りら様」
「は、はいい?! 」
呼ばれていることにやっと気がつく。
「な、何でしょうか?! 」
くすくすと笑われた。
顔が真っ赤になる。恥ずかしい。
「緊張、してしまいますよね。すみません」
天使が目の前にいる! 笑顔が眩しい!
「あ、えっと、その……」
言葉が紡げない。
プリンセスになれと言われるより、目の前の天使に動揺が隠せない。
2次元でしかお目に掛かれないような美青年。
夢か? 夢なのか?
左頬を抓ってみる。
「いだっ」
痛かった。夢じゃなかった。
「だ、大丈夫ですか?! 」
白手袋を無造作に外し、ぐっと近づいたかと思ったら、柔らかく左手を掴み、右手で頬に触れた。
「ダメですよ? 女の子なんですから。着いたら冷やしましょう」
ポケットから綺麗な白いハンカチを取り出し、当ててくれる。
「着くまでこれで抑えていてください」
「あ、 ごめんなさい。こんな綺麗な……」
すっと唇に彼の人差し指が柔らかく食い込む。
「そんなことは気にしないでください」
更に綺麗に微笑まれる。
何ぞー?! これなんぞー?!
頭はパニック状態。
「あ! 申し訳ございません。お名前を確認するのが精一杯で。俺はノア・ドールマン。ノアとお呼びください。貴女の執事になります。新米執事ではございますが、今後ともよろしくお願い致します」
照れながらいう彼に、もうこのまま昇天してもいい気分になったのは言うまでもない。
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