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『それじゃあ、今度来た時に、面白い小説を紹介してほしいです』
「わ、分かりました」
『そのときは、また袖を引っ張るので』
「俺でいいんですか? ……隣町の方が大きい本屋ありますよね、何の為にここへ……」
え、と彼女は少し目を見開く。
そして淡い笑みを浮かべてメモ帳を見せた。
『何の為に、ここに来たか分かりませんか?』
今度はこちらがえ、と口を開いた。
彼女はスクールバッグを開けてメモ帳とシャーペンを閉まった。
これじゃあ、彼女と会話なんて―――。
そう思った瞬間、彼女は口を開き「何か」言葉を放つ。
無音だった。
言い終わると、彼女は顔を真っ赤にして逃げるように書店を後にした。
俺は高鳴る胸を抑えるように、シャツを握りしめる。
―――まさか、そんなはずないだろ。
頬を触ると熱い。こちらまで顔が赤くなっているようだ。
真っ赤になった顔を隠し、俺はそのままバイトのことも忘れて、しばらく彼女との会話を思い出していた。
彼女は去り際にこう言った。
読唇術ができるわけでもないのに、なぜか彼女はこう言った気がするのだ。
俺自身、自惚れているのかもしれない。
彼女の唇の動きに、見惚れてしまった。
"―――貴方に会うために、ここに来たんです"
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