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「マジで!? 俺もその小説好きなんですよ! 作者の言葉の選び方が神っていうか……心にグサッと刺さる一言が素晴らしいんですよねー。特に最新巻の友人の一人が殺された時の―――」
話に夢中になりすぎて、彼女が何か書く動作をしていたことに気づかなかった自分がバカだと思う。
ただ、話が終わる頃に彼女は苦笑いしながらメモ帳を見せた。
『その最新巻を探しているんです』
―――俺の身体はたった今、氷河期に突入した。
体温はたった1度しか変わらないのに、先程駆け巡った身体中の熱は地表に放出され、代わりに意味のない汗ばかりが流れていく。
細胞達が食糧難で飢え死にしそうなのが分かる。
そうして体全体が氷に覆われそうになった。
店員の一人として何をしているんだ俺は。
相手は筆談なのに勝手にペラペラ喋って、挙げ句結末まで教えちゃって。
―――ただ彼女に迷惑かけてるだけじゃないか。
「……すみません……」
何て言葉で侮辱されるだろうか。
あの可愛らしい文字からキツい言葉が書かれたら、破壊力は抜群と言っても良いだろう。
彼女はブンブン首を振り、少し頬を赤らめて微笑み、メモ帳を提示する。
『誰だってあることじゃないですか』
「それでも……」
弁解する俺に対しウーンと何かを考え、そうして彼女はまたカリカリとシャーペンを走らせた。
彼女が動く度に、髪の毛がサラサラと揺れる。
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