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「──お待たせしました。お次のお客さま、こちらにどうぞ」
いつものように店を出ていく客を笑顔で見送ったあと、未森はレジカウンターの前で今や遅しと待ちかまえていた男性客を元気な声で促す。晩酌用なのか、手にひんやりとつめたい発泡酒の缶を受け取りざま、ハンドスキャナーをバーコードに滑らせて素早く値段を読み取る。
「……ねえ、未森くん。実はこのあいだからずっと気になってたんだけど、その目の横って……ひょっとして痣?」
「……ああ、はい。──嫌だな、やっぱり分かりますか? 何だかんだで、もうそろそろひと月近くは経つんですけど」
「うん、よく見なきゃ分からない程度だけどね。まだ少し黄色く残ってる。……まったく、誰がやったか知らないけど、よくこの可愛い顔を傷つけようなんて気になるよ。それじゃなくても、目の周りの痣って治りにくいのに」
「いえ、でも今回は全面的に僕が悪いんです。……僕が、ちょっと悪さをして父を怒らせちゃったから」
遠慮がちに問うてくる常連客に目許を押さえつつ苦笑で応じると、痛そうに表情を歪めながら商品を受け取った彼がふと、悪さというひと言に隠し切れない好奇の色を覗かせた。
「え、なになに、悪さって。未森くん、いったい何をやらかしたの?」
「ふふ、……何だと思います?」
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