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 ……ああ、帰ってきた。あの十年前の過去をめぐる旅からやっと、今、未森が戻ってくるべき場所へ。  ──ごめん。……ごめんね、花梨。ごめんなさい、母さん。父さん。  喉もとでかろうじて堪えていた涙が、口からこぼれた言葉につられるようにして頬を伝い落ちる。けれど、その涙は、かつてさんざん流した後悔からのものではなく、今まで胸にわだかまったままだったすべての毒を漱いでくれるやさしい浄化のそれだった。  ──未森……ごめんね。母さん、自分が怖いからって、あなたのことずっと縛り付けちゃったね。  ごめんね、とうつむいて嗚咽混じりに何度も繰り返す母のすがたに、昨夜、自分が彼女にぶつけてしまった言葉たちの残酷さを改めて思い知る。この十年、未森が苦しんでいたのと同様、もしくはそれ以上に彼女が後悔に胸を痛めていたのを分かっていながら、どうしてあんなひどいことが言えたのだろう。  ──未森は、これからどうしたい?  ふと、それまで沈黙を貫いていた父が、いつもの穏やかな眼差しで息子に問う。彼もまた、未森や佐野の家族を守らんとしてそれまでの職をなげうち、新たにこの海辺の町に越してきてからもずっと、何ひとつ不平不満をもらすことなく、未森たちがつねに健やかであるようにと心を砕いてきてくれた。  ──もう、私や母さんに気兼ねする必要はない。これからは、本当におまえがやりたいと思うことをやりなさい。
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